水滸伝<北方版>

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水滸伝 (北方謙三)


面白い :☆☆☆☆☆
感動した:☆☆☆☆
役に立つ:☆☆☆
薦めたい:☆☆☆☆☆(ただし試験前等なら絶対手を出しちゃダメ!)


全19巻です。
一気に19冊というのは、自分でもよく読んだな〜と思います。
去年あたりから複数の方に薦められてましたが、さすがにこの長さなので躊躇してました。
しかし読み始めたらもう止まらない。
好漢が108人揃わないうちに次々命を落としていき、
スト2巻はほんとにバタバタ倒れていくので、読み進むのが嫌になるくらい。


人々が梁山泊に集まるのは、家族を権力に殺された憎しみ、強烈な反国家思想、
国の有り様への疑問、信頼する人への忠誠など、理由は様々です。
元官軍&賊徒が多いので武人が多数派なのは当然として、
職人としての腕を買われた人、事務能力の高い人、走れる人、泳げる人等々、
今風に言えば「キャラ立ち」が見事。全員に活躍の場が与えられてるところがすごい。
人間関係良好ってわけでもなく、いい奴ばかりでもないのがまたリアルです。


対する宋側の実力者たちもすこぶる魅力的。
宦官というコンプレックスをもちながら、最強の軍人として最高の戦をしたいと望む人、
自分の能力を仕事に活かしきることに快感を覚える人、
都のとある寺の片隅で、国のすべてを密かに把握している人、
自分が好きになった人物しか殺さない刺客、などなど。
敵が強くないとやっぱり盛り上がりませんから。


終盤になると、梁山泊側は政情を混乱させるために評判のよい役人をあえて暗殺し、
逆に宋側は、戦費調達のために腐敗した地方官を取り締まって税の流れを正常化させる、など
どちらが善とか悪とか色分けできなくなってきます。
「革命」という甘い響きの言葉の裏に隠れた、暗い部分を見せるところが
この物語の魅力を増していると思います。


また、「梁山泊」「宋」とは全く別の空気を持った第三の世界として、
「子午山」という場所が設定されています。
「性格に多少難有り」な梁山泊の若者たちはここに送りこまれ、
晴耕雨読、家畜の世話をし焼き物をつくり、数日に1回武術の稽古をつけてもらう、
という静かな山の生活を送り人間的に成長して、また梁山泊に帰っていきます。
緊張感の続く戦いのさなか、
子午山の場面になると、ホッと一息つけるのがうれしいです。


私個人のお気に入り人物は呉用と李富、
ある意味梁山泊側・宋側のそれぞれ一番しんどい立場の2人かも。
けれど一番格好いいのはこれを書ききった北方謙三さん自身じゃないでしょうか。
書ききった、とはいえ今現在も続編が雑誌に連載中なんですから。
こちらも完結したら、一気に読みたいと思っています。


ところで北方謙三が原典のどこを採用し、どこを切って捨てたのか知りたくなって、
いま岩波少年文庫版の水滸伝を読んでいます。
こっちは108人そろうまで誰も死なないぞ、という安心感がうれしい。
新書サイズで3冊というコンパクトさながら、
「金離れよく腕っぷしの強い奴最高!!」というムチャな雰囲気はしっかり伝えていて
子供用と侮れません。
読み終わったら、あらためて紹介&北方版との比較をしたいと思います。

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