英仏百年戦争

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英仏百年戦争 (佐藤 賢一)


面白い :☆☆☆☆☆
感動した:☆☆
役に立つ:☆☆☆☆
薦めたい:☆☆☆☆


先日読んだ「王妃の離婚」の著者、佐藤賢一さんが書いた
百年戦争についての新書です。


高校の世界史で習った時は、たしか
「イギリスとフランスが長々と戦争をしてて、
初めはイギリスが優勢だったけど
ジャンヌ・ダルクが登場してからはフランスが巻き返して、
結局大陸からイギリス軍を追い出した」
という感じで覚えたような気がするのですが、どうもそういうわけはないらしい。
しかもイギリス人は「百年戦争はイギリスが勝った」と認識しているらしい。


そもそもこの戦争が始まった時点では「イギリス」も「フランス」もなく、
現在フランスという国になっている地域の、領主同士の戦いだった、
というところで、まず目から鱗が一枚落ちました。


戦争状態が続くうちに、
イングランドを領地にしていたフランス人は
イングランド王」という存在になり、
戦費の捻出のため王権が強化されて中央集権国家となり、
一般民衆が「イギリス人」「フランス人」という意識を持つようになった。
百年戦争を経験したがゆえに、現在まで続く「国民国家」という感覚が生まれた。


しかしこの「国民国家」ありきの感覚は、
EUの誕生等による国境の意味の希薄化で、過去の物になろうとしている、
現在は百年戦争に次ぐ、分岐点を迎えつつあるのではないか、
という著者の持論でこの本は締めくくられています。


以前読んだ「日本語が滅びるとき」にあった、
国民国家の成立」と「国語の成立」の関係、
「普遍語の席巻」による「国語の地位の低下」とつながるようで、興味深い結びでした。


小難しいテーマの本のように思われるかもしれません。
でも、文庫一冊一気読みさせてくれるような小説家が書いただけに、
おもしろくてこの本もまた一気読みしてしまいました。
ルイとかシャルルとかエドワードとか同じ名前が多いけど
巻末に家系図が載っているので、それを見れば大丈夫。