長城のかげ

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長城のかげ (宮城谷昌光)


面白い :☆☆☆☆☆
感動した:☆☆☆
役に立つ:☆
薦めたい:☆☆☆☆


楚漢戦争時代の、おもに劉邦の側にいた人たちを取り上げた短編5篇です。
「逃げる」   季布(項羽軍の将軍)
「長城のかげ」 盧綰(劉邦の幼なじみ)
「石径の果て」 陸賈(劉邦に仕えた儒者
「風の消長」  劉肥(劉邦の、最初の妻との息子)
「満天の星」  叔孫通(劉邦に仕えた儒者


戦乱の時代は力を持った人に注目が集まるのはまあ当然ですが、
歴史はそういった「英雄」だけが動かしているわけではありません。
いつ殺されるかわからないような不安な時代に
「英雄」でない人たちがどう考え、生き延びたかの物語です。
宮城谷さんは、どちらかというと長編で有名ですが、私はこの人の短編、結構好きだなあ。
この本は歴史の脇役に対する温かい目が感じられて、なお良かった。


「満天の星」の叔孫通は仕えた王を次々替えたので、他の儒者からひどく非難されますが、
物語の最後には、本当にまっすぐな道は一見曲がって見える、
という意味の言葉が引かれています。
寄り道をしたように見えても、それが正しい道だった、という叔孫通の人生。
これを読んで、スティーブ・ジョブズの話を思い浮かべました。
大学を中退して、カリグラフィーのクラスにもぐりこまなければ
今のパソコンのフォントはなかった、
今はまだバラバラに見える点が、将来には一つに繋がることを信じよう
……どうでしょう、似てませんか?


主人公によって、劉邦像が変化するのもおもしろいところで、
劉邦って一言では言い表せない、複雑な人だったんだろうと想像がふくらみます。