晏子

51fm9wnvx1l_sl160_aa115_


晏子(宮城谷昌光)


面白い :☆☆☆☆☆
感動した:☆☆☆☆
役に立つ:☆☆☆
薦めたい:☆☆☆☆☆


およそ2500年前、太公望が立てた国・で活躍した晏弱・晏嬰父子の物語です。
晏弱は主に軍事・外交の面で斉を支え、
父に比べて小柄な晏嬰(身長が135cm弱、と伝えられているそうです)は、
名君というわけでもない君主たちを歯に衣着せぬ言葉で支え、名宰相と呼ばれます。


これまで読んだ宮城谷作品の中で、今の時点でマイベストかも!
前半の晏弱の胸をすくような戦場での活躍と、晏嬰が服喪中に斉都まで攻め込まれる半ば、
後半の君主に苦い薬を与え続ける晏嬰の一貫した姿勢、と
色々楽しめるバランスの良さがいいです。
春秋時代は、太公望の時代ほど呪術的でなく、戦国時代ほど利害第一で動いていない、
というのも、個人的に好きです。
これまで何冊か読んだおかげで国の位置や力関係が頭に入っていたから、
引っかかりなくおもしろく読めたというのもありそうです。


物語に良い緊張感を与えているのが崔杼という人物です。
一度は斉から追放されながらも晏弱の手を借りて復帰し、政敵を追い落として宰相にまでなるという、
晏弱・晏嬰とは違った意味で冷静で知的な人物なのですが、
自らが立てた君主(荘公)に大切な妻を奪われた憤りから冷静さを失い暴走してしまう。


崔杼が荘公を殺し、荘公の遺骸に晏嬰が対面するところから、
実権を握った崔杼と晏嬰の言葉による対決が、この物語の一番の読みどころと思います。
崔杼に言葉の一撃を与えその場を去る晏嬰。
殺伐とした空気を読み、馬を急がせようとする御者に、晏嬰がかけることばが印象的です。


 ゆっくりやりなさい。
 疾く走っても、かならずしも生きられるわけでなく、
 ゆっくり走っても、かならずしも死ぬわけではない。


「生きる・死ぬ」というところを「うまくいく・失敗する」と言い換えるとより身近に思えます。
余裕がないとせっかちになる自分への戒めとしたいところです。


崔杼が物語から去った後はなにか物足りないような感じさえします。
晏弱・晏嬰父子が表の主人公なら陰の主人公は崔杼ですが、
その崔杼を悪役にしてしまわないところが宮城谷さんの優しさだなと思いました。


にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村