重耳
面白い :☆☆☆☆☆
感動した:☆☆☆☆
役に立つ:☆☆☆
薦めたい:☆☆☆☆
今年最後の読書メモは、やっぱり宮城谷さんで締めたいと思います^^
なんといっても今年の(読書上の)大収穫は、長年離れていた
「歴史小説」というジャンルに戻ってこれたことなので。
中国春秋時代の覇者のひとりに数えられる、晋の文公こと重耳が主人公、ですが、
「天下に覇を唱えるには三代はかかる」と書かれるとおり、
重耳の祖父、武公の時代からストーリーが始まります。
上巻は重耳の祖父(晋の分家)が、本家をしのぐ力をつけ、ついに晋を乗っとるまで、
中巻は重耳の父が、うんと年下の美女に惑わされて、国が崩れていくさま、
そして下巻、父のせいで食うや食わずで諸国を放浪し、19年後ようやく国に帰って
覇者として認められるまでの、長い忍耐の物語です。
重耳自身は、兄や弟に比べて特に利発ということもなく、
あれは後継者になれないだろう、と多くの家臣たちに思われているような人です。
ただし兄弟たちより優れた点があるとすれば、家臣の言葉を素直に聞くところ。
わからなくても、適当にわかったふりもせず、反論したりもせず、
「くりかえして自分でいってみよう。そのうちに身につくだろう」
と、まずは愚直に受け入れる。こういう態度ってなかなかとれないです。私も。
兄の申生は、自分を疎んじる父に決して逆らわずとうとう死んでしまい、
弟の夷吾は、自分の能力を過信して自滅する。
そんな中で、重耳のように、耐えて生き延びることも
時には一番強力な武器になるんだな…、いや、
不遇のときが続いても、くさらずにただ耐えて生き延びること自体が
本当に難しいのだろうと感じます。
しかし重耳自身は聖人君子でも英雄でもなく、相当「普通のひと」という印象でした。
放浪中にひどい目にあわされると腹をたて、
斉の国で優遇されたときは、もう晋に帰るのは諦めてここで暮らそうと思ったり、
帰国後、家臣たちへの報奨が不公平!と謀反を起こされもします。
そんな重耳を支え続け、帰国を諦めかけた重耳をむりやり引っぱりだしてしまうような、
個性的な人物の集まった家臣団がいいです。
彼らや、彼らの一族を扱った、「重耳」に連なる作品がいくつかあるようなので、
次はそれを読んでいこうと思います。